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防災士

岡本 裕紀子

防災とは『自然と向き合うこと』

「左、左、左右!ソーレ!」「全体とまれ」
指揮者の号令に30人が一糸乱れぬ動きで応える。17年8月。消防団員である私は規律訓練の選手として大会の舞台に立っていた。直前の約1カ月間、仕事を終えてから練習に励む日々が続いた。先輩たちの激励の声、回を重ねるごとにひとつになる心…。消防団ならではの使命感・連帯感・達成感を肌で感じ多くを学んだ。なかでも規律訓練のありかたをまとめた消防の掟「訓練礼式十則」が印象深い。本稿ではその9か条目をご紹介する。
9か条目 訓練の回数は改善努力の回数である
改善努力を加えた10回の訓練は改善努力を加えない100回の訓練に勝る。単なる反復訓練は惰性につながり、かえって危険を生ずることとなる。

訓練の形骸化を防ぎつつ、真の防災力を養うためには、趣向を凝らしフィードバックすることが必要だと説いている。地域や企業で行われる防災訓練は創意工夫次第でより効果的な防災啓発の場となる。例えば、炊出し訓練。一般的に具材は事前に調達しておく場合が多い。これをアレンジし、事前に何をつくるか決めておき、それを周知。具材は訓練参加者が当日持ち寄るという手法もある。また、訓練当日に参加者が持ち寄った食材の種類・量を勘案し、何をつくるかその場で決める方法へと進化させることも可能だ。訓練に必要なものを参加者自ら考え準備することが、自助・共助の力を高める礎となる。

このような工夫は主催者・参加者という垣根を取り払い、両者がともにひとつの訓練をつくり上げる「シナリオなき訓練」にもつながっていく。現在は、分刻みでスケジュールを組み、担当者を割り当て、滞りなく進む訓練が多い。そのような訓練で、災害時の確認事項や各種手順を習得できる意義は大きい。しかし、発災後にはさまざまな側面で障害を来すことが予想される。訓練同様すべての物事を円滑に進めることができるとは限らない。いまこそ「予定をざっくりと組み、多少の混乱や失敗を恐れない訓練」にシフトしていくときである。訓練で生じた混乱や失敗の原因を見いだし、それに対して丁寧に手を打つことで、より実践的かつ臨機応変な対応力に磨きをかけたい。失敗は成功の母。その言葉をしっかりと心に刻みながら。さらに、災害後に直面するかもしれない状況を体験できる内容を盛り込むことができれば、訓練にリアリティが増す(避難所運営訓練の場合の例:1人あたり1㎡の専有面積体験、宿泊訓練など)。その体験こそが、次なる備えへの架け橋となるのだ。

先日、ある農家の畑を見学させていただいたときのこと。「自然条件は毎年変わる。だから農業は何年続けても毎年一年生」という言葉が心に響いた。さまざまな経験を積むことで培われる確かな技術や知恵のみならず、自然に対する謙虚さも農業には不可欠だと知った。その姿勢こそ、防災の神髄ではなかろうか。防災とは「自然と向き合うこと」なのだから。災害列島・日本において「防災」は永遠のテーマである。

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