POINT OF VIEW ポイントオブビュー

明治大学教授

江下雅之

政治とメディア


世界中の多くの国で、SNSを中心とするインターネットのツールが国政選挙を戦う上で重要な「武器」となっている。
対立陣営よりも多くの票を獲得するために、自陣営の知名度を上げるため、あるいは自陣営の主張に共感を抱いてもらうために、政治家はさまざまな経路を通じて情報を広げようとする。票数という量が大きなポイントとなる以上、ここでは当然、拡散すべき情報のリーチや量を少しでも広げようとするだろう。ゆえに、その意図を実現するべく、利用可能な情報伝達ツールをあの手この手で駆使するわけだ。

現代では、SNSがそうしたツールの重要な選択肢となっているのである。メディアの歴史を遡ってみると、政治的な組織による激しい情報戦のなかで、まだ比較的新しいメディアの活用が重視されてきたことを確認できる。
17世紀にイギリスでトーリー党とホイッグ党が二大政党制を確立していく過程では、市場の拡大期に入りつつあった印刷術がさかんに活用された。これが結果的にイギリスでジャーナリズムを発達させる大きな契機ともなった。
一方、大革命後のフランスの混乱期においては、女性労働者が自分たちの権利を主張するための機関誌を定期的に発行する試みが相次いだ。

やがて19世紀に入り、紙の大量生産技術が確立され、大量出版の新聞や雑誌が世論形成で重要な役割を担うようになると、女優兼コラムニストとして活躍していたマルグリット・デュランがみずから女性向け新聞を創刊し、多くの女性ジャーナリストや女権活動家を育て上げ、初期の女権活動を支えた。

日本でも明治期に政治団体がさかんに機関誌を発行したが、これが近代日本における最初期の雑誌の一大ジャンルを形成している。そして日本での政治とメディアという点でとくに注目されるのがレコードの活用なのだ。
エミール・ベルリナーが1887年に開発したディスク方式の蓄音機は、音楽の複製ビジネスを一気に開花させた。日本には1903年に輸入されており、楽曲だけでなく、義太夫や浪花節などが商品化され、徐々に市場を広げていった。
そして1915年の第12回総選挙において、選挙演説を吹き込んだレコードが選挙戦で用いられることとなった。具体的には、尾崎行雄が演説「人類と禽獣」を吹き込んだ。続いて大隈重信首相も「憲政に於ける輿論の勢力」というレコードを制作させた。

レコードは演説内容を「拡散」するためのメディアとなったのだ。ちなみに1928年に普通選挙が実施されると、田中義一首相は演説をレコードにすぐさま吹き込み、各地の立候補者に送った。この際に与党の政友会がこのレコードを大量に追加発注し、在郷軍人会などに寄贈した行為が社会問題となり、選挙違反で田中を告訴する地域もあった。
このことはむしろ、レコードという新しいメディアの拡散力を物語るものといえよう。政治は、つねに強力なメディアを駆使してきたのである。

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