POINT OF VIEW ポイントオブビュー

東京大学名誉教授

月尾 嘉男

米中貿易戦争の背後にある技術戦争


研究を職業とする人間の業績は一定期間に何編の論文を発表したかによって評価される。しかし、一般雑誌への掲載と学術雑誌への掲載は同等ではなく、厳格な審査によって掲載が決定される学術雑誌へ掲載された論文のみが評価の対象となる。研究機関によっては、この本数が年間何本以上という義務さえある。
厳格な審査を通過して学術雑誌に掲載されたということは論文が一定の水準以上であることは意味するが、内容の優劣を示唆してはいない。そこで優秀な論文であれば、その内容に関連する研究をしている学者が自分の論文に引用するであろうという想定で、引用回数の多寡が内容の優劣の評価基準になる。

そこで個人の研究能力や大学や研究機関の優劣の評価指標として、論文の引用された回数の上位1%の論文本数によって判断する方法が普及している。文部科学省科学技術学術政策研究所が世界各国の研究分野ごとの03―05年と13―15年の上位1%の論文本数を比較した研究を参照し、米中関係を考察してみる。
米国が中国に高率の制裁関税を課税したが、その背景は中国が米国の知的財産を不当に侵害していることへの対応とされている。実際、今年7月にもアップルに勤務していた中国国籍の社員が退社して中国に帰国しようとしていた空港で逮捕された。自動運転についての機密情報の窃盗容疑である。

その中国は2015年に「中国製造2025」という国家目標を発表した。工作機械、ロボット、航空技術、軌道交通、医療機器など10の主要な産業分野で世界の強国の仲間になるという目標であり、さらに中国建国100周年になる2049年までには世界最強の産業大国を目指すという壮大な構想である。
中国政府が発表している資料では、現在の中国の製造産業の総合指数は急速に上昇しているものの、1位の米国の半分で、日本とドイツを追跡する4位であるから、かなり強引な目標のようであるが、前述した科学技術分野の論文の評価から判断すると、米国が脅威を実感するのに十分な結果になっている。
引用回数1%の論文について、中国は化学で5位から1位、材料科学で3位から1位、コンピュータ科学で4位から1位、工学で2位から1位、生命科学で15位から4位となり、全体でも7位から2位へ躍進である。03―05年の1位はすべて米国であったから、米国が危機意識をもつのは当然である。

昨年米国を揺るがす事態が発生した。米国人工知能学会大会への応募論文の1位が中国、2位が米国になったのだ。審査により論集に収録された論文は僅差で米国が1位であったが、情報社会の中核の人工知能研究で米中は伯仲してきた証明である。これが米中貿易戦争背後の現実である。
最後に日本の状況を紹介する。化学は3位から5位、材料科学は4位から7位、コンピュータ科学は12位から15位、工学は7位から17位、全体で6位から12位と大幅下落である。ノーベル生理学医学賞を受賞された大隅良典博士が日本の科学の未来を憂慮しておられるが、科学技術立国日本は、かなたに消滅しつつある。

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