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東京大学名誉教授

月尾 嘉男

STEM教育の出遅れ挽回が必至


この9月、日本で「国際情報オリンピック」が開催された。87カ国から約300名の高校生が参加し、コンピュータ・プログラムを作成する大会である。新聞では4名参加した日本が4個のメダルを獲得し奮闘したと紹介しているが、国別順位では1位が中国、以下、韓国、アメリカで、日本は12位でしかない。

日本が出遅れている主要な理由はSTEM教育の出遅れである。S(科学)、T(技術)、E(工学)、M(数学)という理系の教育である。1980年代に日本が自動車、半導体などでアメリカを凌駕しはじめたとき、アメリカ議会が日本を恫喝する一方、国立科学財団(NSF)がSTEM教育の推進を提唱した。この意見を重視したオバマ前大統領は2009年の就任直後に「科学を本来あるべき地位に復権させる」という演説をし、2020年までにSTEM分野での小中学校の教師を10万人育成、大学卒業生を100万人増加させるという数値目標を提示し、毎年3000億円の予算を投入してきた。
現在は200年以上前の産業革命に匹敵する情報革命が進行し「2030年には世間に存在する仕事の半分が消滅する」「現在の子供が大学を卒業する時期には65%の生徒は現在の社会に存在しない職業に就業する」という意見を妥当とすれば、STEM教育は必須であるが、ここでも日本は出遅れている。

2016年に経済産業省が「新産業構造ビジョン」でSTEM人材の育成を提言し、文部科学省は2020年から初等教育でプログラミング教育を学習指導要領に記載するかどうかを検討するという悠長な状態だ。余裕ある家庭では自己負担により私塾で受講させているが、大量に人材を育成するには不足である。
この家庭負担の問題は本年9月、OECDが加盟35カ国を対象にした調査でも明確である。まず教育機関への公的支出のGDP比は最高のノルウェーの6・5%に比較して日本は2・9%で最低であり、高等教育に必要な費用の家計負担の比率は平均が22%であるのに日本は52%で世界2位の高率である。
さらなる問題は現在の日本の高等教育の全体構造がSTEM教育に対応していないことである。日本の大学の理系の学生の人数はSTEMに農学を加算しても21%でしかなく、80%は文系である。最近は文系でもプログラミング教育などはしているが、情報技術の先端に十分に対応できるかどうかは心許ない。
今年は明治維新150周年であるが、明治初期の日本の教育改革は目覚しいものであった。当時は工学が先端分野であったが、1875年に工学教育のための工部大学校を創設し、世界の最高学府であったグラスゴー大学を中心に優秀な教授を招聘した。その給料は太政大臣に匹敵する高額を支払って優遇した。

アメリカではトランプ大統領がオバマ時代の政策には熱心ではないため、STEM分野の学者が「ヴォートSTEM(科学教育に投票)」という組織を設立して学者を国会議員にする活動も活発である。国家情報競争力では27位になっている日本は、目覚めなければ情報後進国家として衰退していく岐路にある。

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