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連載「研究派」264「土に還る電池」

NTT先端集積デバイス研究所

2018年6月18(月) 3332号

NTT先端集積デバイス研究所ソーシャルデバイス基盤研究部研究員の野原正也氏は、現在「土に還る電池(ツチニカエルでんち)」の研究開発に取り組んでいる。これは文字通り、使い捨てても自然に影響を与えない無害な材料のみで構成された電池のことだ。
今後IoTが発展すると、いたるところにセンサや電池が置かれるようになる。そうなると、回収から漏れてしまうものも出てくるだろう。例えば生態研究のために渡り鳥や魚類に取り付けたセンサや電池を回収するのは非常に難しい。
「従来の電池がそのまま放置されると土壌や生物に大きな影響を及ぼす。万が一、回収から漏れてしまっても、環境への負荷を極力抑制するセンサや電池が必要だ。このような発想から土に還る電池の研究開発に着手した」(野原氏)。
野原氏の所属する研究グループでは、もともとスマートフォンを長時間持たせるバッテリの研究を行っており、まずは、バッテリの知見を生かせる電池の無害化から取り組むことにした。

この電池は、すべての材料が肥料由来、生物由来で構成されている。
要するに一般の電池に含まれている有害な物質は一切使われていない。そのため仮に放置されても土壌・生物などに害を与えないというわけだ。
肥料成分とは、窒素やリン、カリ(カリウム)など植物が成長するために不可欠な要素であり、農家が作物を育てる土壌に撒いている肥料の成分だ。こうした肥料に含まれる成分の中から、電池としてうまく反応するようなものを選択して材料に組み込んでいる。
野原氏は、「世の中にあるものだけで、電池を構成したかったが、どうしても開発しなければならない材料もあった」と振り返る。
それが「生物由来カーボン」だ。
電池の電極は、電池反応に必要な電子の導電パスと空気中の酸素が拡散できる3次元の導電多孔体構造が必要であり、一般の電池は粉末状カーボンと結着剤(粉末状カーボン同士を接着するつなぎ)で構成している。
ただ結着剤はフッ素系樹脂などでつくられており、肥料由来、生物由来ではない。
フッ素系樹脂は燃やすと有害なガスが出るので、環境に負荷を与える可能性がある。
「そのため、生物由来カーボンを開発し、結着剤のない空気極を電池に組み込んだ。この技術がブレークスルーになり、土に還る電池は実現した」(野原氏)。
一般の電池は正極、負極、電解液で構成されるが、土に還る電池は電解液が入っていない状態にあり、水を吸わせることで発電を開始する。肥料検定法に基づいて、植物に与える影響がないことも確認。一般の電池とはまったく異なることを証明した。

商用化の期待も高まっているが、まだ課題もある。「現在の性能では用途が限定されてしまうため、まずは市販の電池並みに性能を高めたい。そうすることで用途も広がる」と野原氏は語る。
IoT時代を視野に入れると、電池はセンサや回路とセットで利用される。電池だけ土に還っても、自然に優しいことにならない。やはりセンサや回路も土に還らないとコンセプトとして成立しないので、土に還るセンサ・回路の実現を目指さなければならない。
「エコな観点でいうと、電池は回収してリサイクルするほうがいい。われわれも回収しなくていい電池を開発するつもりはなく、あくまで回収から漏れてしまっても環境に影響を与えないで済むソリューションとして打ち出していく」と野原氏は述べる。
子どもの頃から、物理や化学が好きで得意だったという。大学では材料研究をした。「大学に進学して、何をやろうかと考えたとき、日本は材料の分野が世界的に進んでいると知り、材料分野の研究に決めた」。
世界一の研究をしようということで、そういう道に進んだという。材料研究にはまって研究者になった。
世の中に利用されるものをつくりたいとの思いから、広くサービスを提供しているインフラ事業を展開するNTTに入社した。
入社後は燃料電池の研究に従事。その後、二次電池の研究に携わった。
研究モットーは「ムダな努力はない」。
「いまは日の目を見なくても必ず生かされる。土に還る電池で開発した生物由来カーボンも、実は二次電池で培ってきた技術が生かされている」と話す。
趣味はテニス。

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