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知的財産交流会のコンセプト

川崎市が推進する川崎モデル

開放特許で大企業と中小企業が連携

2019年1月1日(火) 3355号

1990年代初頭のバブル崩壊は、日本経済に大打撃を与えた。とくに製造業への影響は大きく、大企業の下請けを生業にしてきた中小企業にとって死活問題となった。そのような中、川崎市では地元企業の支援策として大学や大企業、あるいは地元企業同士のマッチングを促進する事業を展開するようになる。その一環として、現在は大企業の開放特許など知的財産を中小企業に紹介し、付加価値のある製品開発を支援する事業を推進。この取り組みは「川崎モデル」と呼ばれ注目されている。

独自の強みを持つ企業同士が連携してシナジー効果を生み出すオープンイノベーションが活況を呈している。そのような中、新手のオープンイノベーションモデルとして耳目を集めているのが「川崎モデル」だ。
川崎モデルは、川崎市が地域産業活性化を目的に推進。行政職員はじめ各支援機関のスタッフが市内企業を訪問し、各施策の紹介と課題解決に取り組む「出張キャラバン隊」や、大企業・研究機関が保有する開放特許など知的財産を中小企業に紹介し、中小企業の製品開発や技術力の高度化、高付加価値化を支援する「知的財産交流会」が主な内容だ。
行政は企業からの相談を窓口で待つというのが一般的なイメージだが、川崎モデルは、そんな通念を打ち破り、行政が自ら足を運んで、各企業の「ご用聞き」にまわる点が特徴だ。
同市経済労働局イノベーション推進室知財戦略担当係長の加藤行一郎氏は、川崎モデルを推進するに至った背景について「川崎市は中小の製造業が多い地域であり、こうした中小企業の多くは大企業の下請けで成り立っている。つまり中小企業の経営は大企業の発注状況によって大きな影響を受ける。こうした課題に対して、中小企業が自社製品を創出することで大企業への依存体質から脱却し、川崎市の製造業を活性化させる目的でスタートしたのが知的財産交流会だ。10年ほど前から全国に先駆けて展開している」と説明する。
大企業の開放特許を活用して、ものづくりを得意とする中小企業が新製品、独自製品を開発できれば、その中小企業の強みとなり、ビジネスの輪も広がる。
「われわれには技術コーディネータがおり、製造業に強いコーディネータの知見を借りながら、技術的な相談についても支援している」(公益財団法人川崎市産業振興財団の片桐仁志氏)。
 
先述のように、こうした営みを積極的に行う自治体は珍しく、とくに大企業の開放特許に着目した取り組みに注目が集まっている。大企業は、たくさんの特許技術を保有している。その中には、自社の事業規模に合致しないことから十分な活用がなされていないものや、一度は事業化されたが、商品が販売停止になって使われなくなったものなどがある。こうした技術をそのまま塩漬けにしておくのは、もったいない。一方、中小企業のほうは、新製品や独自製品を開発したくても、やはり、リソースが限られており、ゼロから開発するのは、かなりのハードルになる。
「そのため、大企業の開放特許技術と、中小企業のものづくり技術をうまくマッチングさせることで、中小企業の製品開発を支援しようというのが、われわれの趣旨になる」(加藤氏)。
同市では、マッチング活動として「川崎市知的財産交流会」を定期的に開催。大企業と中小企業の出会いの場を提供し、ニーズとシーズがマッチした際は、事業化の可能性や契約条件の調整を行う。その後は、ライセンス契約を締結し、試作開発や性能評価を実施した上で、事業化の運びとなる。
新製品の販売は基本的に中小企業が行うが、市長記者会見の席で、市長自らが製品説明を行うなど、オフィシャルなPRも行っている。
こうしたスキームを通じて成約した件数は、この10年で30件以上、 20件ほどの新製品が誕生した。
大企業からすれば眠っていた特許技術が活用されることでロイヤリティを見込めるようになる。ただ開放特許で荒稼ぎしたい企業は皆無だという。
「CSRと捉えている企業が多い。使われなくなった特許技術が再び利用されることで、自社の技術者のモチベーションが上がるという効果もある。そういうところを目的に大企業は取り組んでいる」と片桐氏は話す。

川崎モデルをスタートした当初、特許を開放する大企業は富士通やNEC、東芝など数社だったが、川崎モデルの認知が進んだこの数年で30社以上に拡大した。
「従来は、川崎市のほうが大企業に特許を開放してくださいとお願いしていたが、最近は積極的に参加していただけるようになっている」(加藤氏)。
特許を開放する大企業が増えることで、知財の幅も広がる。かつては、ものづくり系の開放特許が多数を占めていたが、近年は食品系、ICT系が多くなっているという。
とくにICT系特許は中小企業側のニーズが高いことから、昨年11月にはICTにテーマを絞った知的財産交流会を開催した。
 
現在、同市では川崎モデルの全国展開に力を入れており、各地で知的財産交流会を開催している。
川崎市内に閉じていた営みを全国に広げることで、企業のマッチング機会の向上を図るのが狙いだ。
加藤氏は「川崎モデルを広域化し、市外の企業も支援することで、川崎市は、市外の企業ともネットワークを築くことができる。これにより、市内の企業と市外の企業の仲介役を担いやすくなる。要するに市外の企業を支援することは、市内の企業の支援にもつながる」とその意図を説明する。
市外の企業とのマッチング事例も出ている。
イトーキの特許技術である「規律補助椅子」を活用し、宮崎県の花菱精板工業が福祉関連の補助椅子を開発した。起立・着座時の座面を押し上げる力が自動的に切り替わる機構で、起立や着座の負担を大幅に軽減する椅子だ。
ちなみに、最近ヒットしたのは点検作業の効率化を図る360度撮影カメラ用の照明付架台「PanoShot R」だ。
清水建設の特許技術「撮影器具およびパノラマ撮影装置」を応用し、川崎市内の中小製造グループ「WIT」(和興計測・岩手電機製作所・津田山製作所の3社によるグループ)が共同開発。屋根裏や床下などの暗闇を360度・4メートル四方で照らすことができ、素早く簡単に点検作業を実施できる。
同製品は大手住宅メーカに導入されており、住宅の検査などに利用されている。

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